見えないご縁や気持ちを形にするもの。

──そんな長浦さんにとっての水引とはどういったものですか?

見えないご縁や気持ちを形にするものですね。
私自身ご縁を頂いて、神道、仏教、キリスト教の方ともお仕事をさせてもらったんですが、どの方からも「光を表現してほしい」と言われました。空海の真言の光、キリストの教えの光、アマテラスの光。そんな大それたことは言えないけれど、きっと宗教の枠を飛び越えた人間愛が根幹なのかなって思ったんです。「隣人を愛しなさい、」って身近な人を思うってことに繋がっていくと思うんですけど、水引って遠くの人に渡すことってそんなになくて、身近な人への「おめでとう」「ありがとう」って思いから派生していくものだと思うんですよね。まずは目の前にいる人やそばにいる人とのご縁や感謝、そんな見えない気持ちが繋がったら、きっと平和にも繋がっていくという感じ。そこはEカシヒノミヤのコンセプトにも通じると思います。

自分が抜けていくみたいな感じです。

──水引と出会って、ご自身のブランド【TIER<タイヤー>】を創立して、振り返って見ると、今どんなご心境ですか?

ある時頂いたお仕事が、結婚式に初めて参列する20代女性をターゲットにした祝儀袋の商品開発だったんです。振袖のような、艶やかなピンクの水引も作ったんですが、実際はスタンダードな紅白の水引の祝儀袋がダントツの人気でした。若い人も、日本人がもともと持っている感性があるのでしょうね。それを思い出してもらうきっかけづくりが私のお役目なのかなって。

──お役目、ですか

そうですね、役割、というかお手伝いというか。始めた頃と違って、私が水引と出会ったことは偶然なようで偶然でないのかもと思うようになりました。若い時って自分で掴みに行ったくらいに思ってたけれど、色んなお仕事をさせてもらうたびに「自分ができることと水引が合わさってお役に立てることがあるのかも。お役目なのかな。出来るとこまでやってみようかな」、って。自分が抜けていくみたいな感じです。
「水引香椎宮」を作ってから、神功皇后様とのご縁も勝手に感じています(笑)。今の時代の女性像とリンクする気もするし、今の時代を応援する要素も感じていて、「神功皇后様がもしお伝えしたいことがあって、私でお役に立てるなら」、って思っています。

水引の未来は型破り。

──Eカシヒノミヤでは、過去としての神話、今生きている現代、社会を変えていく未来の要素の、三つの視点を大事にしています。長浦さんの活動にとって、未来はどういったものですか?

私もまさに未来を今、考えているところです。私の水引の活動は、100年前の人が見れば結構ハチャメチャかも知れない。けれども、水引の歴史を紐解いて、現在の水引を知り、過去と現在の水引の違いを知ることで、「ここは守らないと」、と言う普遍的な本質を理解して活動しているつもりです。故中村勘三郎さんの言葉で「型があるから型破り。型が無ければただの形無し。」とあるように、水引の未来は、型を理解しながらも自由に発想していくものだと思います。水引の普遍的な本質を、過去、現在からそんな未来へと橋渡ししたいですね。

──「水引香椎宮」でも細かく切った紙紐を点描のように使ってありますが、ああいう使い方もアリなんですね。

水引は、私にとって見えないご縁や気持ちを形に出来るツールだと思っています。結ぶことも、切って使用することも、水引の素材としての表現の幅広さだと思います。

──「お役目」だったり「橋渡し」だったり、お話の端々にある言葉を聞いていると、何だか長浦さんはひと昔前だったら巫女さんだったんじゃないかと思えてきます(笑)

実は一点ものの作品を作る時は完全に入り込んでしまいます。集中しすぎるのかな、「魂入れすぎて魂抜ける」みたいな、完成すると謎の体調不良になるんです(笑)。「ちえちゃんが依り代になってたんだね」という友人の一言は、ああそうかも、と思って。忘れられないです(笑)

インタビュアー/木下英大(香椎宮) 写真/大林 直行、大塚紘雅

長浦ちえさん

福岡生まれ。武蔵野美術大学油絵学科卒業後、デザイナーとして水引商品等の開発に携わる。2013年より自身のブランド【TIER<タイヤー>】を創立し、従来のスタイルにとらわれない自由なアイディアとセンスでたちまち水引を世に広める。東京スカイツリーオリジナル商品や、ディズニー『リトルマーメイド30周年記念 日本オリジナルアート』を手がけるなど幅広く活躍している。著書に、『手軽につくれる水引アレンジBOOK』 『はじめての水引アレンジ』(世界文化社刊)がある。

HP|tiers.jp Instagram|@tier_chie