応神天皇の御出生地・宇美八幡宮と御神木の楠
香椎宮は、第14代天皇仲哀天皇とその妃神功皇后の夫婦の神様をお祀りしています。また香椎宮境内には、子どもの守り神である鶏石神社も鎮座します。
香椎に程近い箱崎にはお二人の御子である応神天皇をお祀りする筥崎宮、南の地、宇美には応神天皇出生地とされる宇美八幡宮も鎮座し、九州北部にはご夫婦とその家族にまつわる神話が数多く残ります。
一方神話の時代から下った現代社会は、家族を取り巻く環境やその在り方が大きく様変わりしました。現代は、社会制度が整えられている過渡期と言えますが、その中で、子育ての社会資源や子どもの居場所が不足する等の、子どもと家族にまつわる課題が顕在しています。
本対話では家族の神話を預かる香椎宮が、この課題を乗り越えていくための実践・研究に取り組んでいる九州大学の田北雅裕氏に、家族とコミュニティの今とこれからについてお聞きします。
香椎宮の夫婦の御子・応神天皇を祀る筥崎宮と二つの家族の結婚
木下:田北先生は個人的で切実な事柄を支える「公共のデザイン(まちづくり)」に取り組んでいらっしゃいます。まちづくりを〈社会的に孤立している人の関係や事象を、まち(地域社会)という中間領域にひらき、支えること。居合わせた人たちとともに、日々の暮らしの課題を乗り越え、次の世代に希望をつないでいく実践〉と定義なさっています。田北先生が携わる様々なプロジェクトの1つに、SOS子どもの村JAPANという活動があり、その中で、「子どもショートステイ」という取り組みをなさっていますね。この取り組みについて教えていただけますか。
田北:子育て中の親は誰でも様々な壁にぶつかります。たとえば、「病気になって子どもの世話ができない」とか「精神的に辛くて子どもにきつく当たってしまう」とか「子育てに疲れてしまった」とか。「子どもショートステイ」は、そんな時に数日間子どもを預かる、福岡市の子育て支援サービスです。具体的には、SOS子どもの村JAPANが運営している「子どもの村福岡」や地域の里親さんと協力しながら、子どもが安心できる家庭環境の中で一時的に預かります。地域の里親さんが預かる際には「里親ショートステイ」と呼んでいます。
木下:先生が特に力を入れて推進していらっしゃる「里親」の役割について、具体的に教えていただけますか。「特別養子縁組」と混同して認識されていることも多いように思いますがいかがでしょうか。
田北:「里親」というと「親になる」というイメージを持たれがちですが、里親が預かる子どもの多くには産みの親(実親)がいます。里親は一時的な預かりが基本なので、産みの親と子どもの両方を支えることもあります。親の代わりというよりも、第三者として家族を支えていく役割ですね。
一方で、「特別養子縁組」の養親は、法的にも親になるということです。制度を活用して新しく親子の縁を結び、家族をつくっていくわけです。海外では、ポストアダプションサービスといって、養子縁組後に子どもが自分のルーツを探すためのサポートもあります。
木下:特別養子縁組というのは、幼い頃から自分には産みの親が別にいると子どもが認識できる状態なんですか。
田北:いろんなケースがあります。記憶がないくらいの新生児、乳幼児の時に迎え入れられて、家族としての縁組をしていくケースや、縁組時点で理解している子どももいます。4年前の法律改正で15歳未満まで縁組が可能になったので、今後さらに高年齢時の縁組は増えていくと思います。縁組時に記憶のない子どもにどのタイミングで真実を告知したらいいのか、それは当事者の方も悩まれている難しいテーマです。一般的には、幼い頃から伝え続けるのがいいと言われていますが、大きくなって告知してもらってよかったとおっしゃる方もいます。